現金商売と従業員の横領

 従業員の横領のご相談はよくあります。数百万円から1000万円を超えるものまであります。

 業種も、病院、飲食店、機械等の販売業、メーカー等多岐にわたります。

 したがって、自分の会社は関係ないと思うのは危険です。まじめな従業員でも、やむにやまれぬ事情があるかもしれません。したがって、従業員に誘惑を生まないような仕組みを作ってあげることが必要とも言えます。


 多くの場合は、横領した従業員しかレジや集金等について、情報を持っていなかったことが原因にあります。

 したがって、①お金に関することは、複数の人に担当させる(親族の方を関与させるのも良いでしょう。)、②番頭さんみたいな方に任せっきりにしない、③可能な限り、お客さんからの支払いは、振込やクレジットカード、電子マネー等の支払いにする、④一日の売上と現金の残高を把握するようにする、等の対策を取りましょう。


 また、従業員が入社する際に、身元保証書といって、会社に損害を与えた場合に、身元保証人が弁償するという文書を提出してもらうのも一つの有効な対策でしょう。

 しかし、身元保証書を提出してもらっていても、身元保証人の賠償額は、損害額の一定程度に制限されるのが通常である点に留意が必要です。

 なお、2020年4月1日以降は、身元保証書には、極度額といって、弁償額に限度を設ける必要があります(民法465条の2)。


 横領が発覚した場合は、警察に被害届を提出しても、刑事手続(罰を受けること)と民事手続(お金の返還)は別ですので、自動的に、お金が返ってくることにはなりません。


 横領した従業員としては、可能な限り、雇用主に、お金を返し、雇用主から、寛大な処置をお願いすると言ってもらった方が、起訴猶予といって、検察庁の段階で刑事手続が終わったりします。そういう点で、刑事手続においては、間接的に、横領した従業員が、雇用主にお金を返還するモチベーションが生じることになります。

 

 実際は、警察に被害届を提出しても、横領した従業員が逮捕されて、働けなくなれば、お金を返せないので、お金を返してもらうことを優先すると、被害届を提出せずに、働いて、頑張って返してもらう方が良い場合が多いと思います。


 このような場合は、月額いくらを返します、という公正証書を、公証人役場で作成しておくことが多くあります。

 

熊本の法律事務所 野口法律事務所 弁護士 野口敏夫 野口敏史

野口法律事務所は、弁護士歴45年目の野口敏夫弁護士とその長男であり四大法律事務所(五大法律事務所)と呼ばれる東京の大手法律事務所(弁護士在籍数当時500名弱)に勤務していた野口敏史弁護士が所属する 熊本では老舗の事務所です。 相続、遺言、複雑なM&A(デューデリ含む)、企業側の労働問題(団体交渉含む)、事業再生・倒産、複雑な訴訟、複雑な契約、英文契約等を得意にしています。